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所:
今年の4月より鶏鳴新聞に「NBI対談」を掲載することにしました。これからの養鶏業界にとって重要と思われる産官学のトップの方々にご登場いただき、対談形式でそれぞれのご専門分野について語っていただこうと考えています。そのトップバッターとして、歌田勝弘(うただ かつひろ:味の素㈱元社長・現相談役、(財)バイオインダストリー協会最高顧問及び日本バイオ産業人会議世話人代表)様にお話を伺いたいと思います。
先ずはじめに、世界の先進国が今後の有望な成長産業と位置付けているバイオ産業について日本の現状をどのようにみていらっしゃいますか。
歌田:
現在、我々を取り巻く社会情勢は、大きな変動期にあると考えております。つまり、世界的に見て情報化、グローバル化、価値観の多様化等が非常に早い速度で進行し、国際的な競争が激しさを増してきています。一方、国内においては、高齢化、少子化、高学歴化、成熟化等が進んでいます。天然資源の乏しい日本としては、この変化に対応し国際競争力を保つために、産業構造を変革して、知的価値を創造して行くこと、つまり科学技術立国を創造してゆく以外に道は無いと考えます。
そのような意味において、バイオ産業は生命産業の中核を担う戦略産業であるとともに、その基盤技術であるバイオテクノロジーは多様な業種業態に共通する技術であり、その産業の育成は新しい価値の創造に大きなポテンシャルを持つ、国家の最重要項目であると確信しております。21世紀は情報・通信産業の時代と共に生命科学・生命産業の時代です。
実際に欧米諸国などに比べると、その市場的規模などからみてかなり日本は遅れをとってきたと見られがちです。その一例ですが、日本では現在バイオベンチャーの数は200社位あると言われております。それに比べ、アメリカなどは1,500社ものバイオベンチャーがひしめき合い、欧州では1,300社程度がしのぎを削っています。日本も国家目標として、2010年にはバイオベンチャーの数を1,000社程度にまで増やし、バイオマーケットも25兆円規模にしたいと考えています。
所:
日本のバイオ産業がやや遅れを取っているとご指摘がありましたが、それはどのような原因によるものでしょうか。
歌田:
先ずその原因として挙げられるのが、条件整備の不備でしょうか。それから2点目として、意識改革の問題があると思います。
具体的に申し上げますと、研究開発とその成果を産業化するシステムの遅れにあると考えています。そもそも日本の大学の環境からは、バイオの人材が育ちづらいという状況があります。欧米に見られるような大学等の研究機関を中心としたベンチャー企業の支援、システムが一体となった技術集積地域を日本社会においても整備する必要があります。他方、意識改革の問題に関しては、失敗すると再起できないといった風潮があり新たなチャレンジがしにくい環境があることも事実です。
所:
この2年ほどの間に、特にバイオベンチャーに対する意識の変化が見られているように感じますが、その点はいかがですか。
歌田:
確かに大分変わってきています。特にTLO(テクノロジー・ライセンシング・オーガニゼーション:技術移転機関)法案が施行された1998年以降、大学の意識の変化が見られるようになりました。バイオに携わる学生の数も増加しているようです。
所:
意識改革が進んでいることは、我々バイオベンチャーを運営している側でも実感できます。先ほどのお話にもありましたように、2年ほど前まではバイオベンチャー企業の数も60社程度とわずかでしたし、ベンチャーキャピタル各社もIT案件一辺倒でバイオ案件は無視という状況でしたから。しかし、ゲノムブームが起きた昨年の春位から大分様子がかわり、現在ではご指摘がありました通り、バイオベンチャーも180社~200社位になりました。それでも日本のバイオベンチャーの内容は、まだまだですね。実際昨年末の数値ですが、アメリカナスダックのマーケットキャップ(株価×株式数)は、バイオ関連が60兆円程度、ヨーロッパでは7兆円、ナスダック、マザーズ、店頭を含めても日本はゼロですから…。日本ではバイオ関連の上場企業は、まだ一つもありません。まだまだシステムとしての整備が整っていないようですね。それでも逆の見方をすれば、バイオビジネスの可能性(埋蔵量が多い)を秘めているといえますが…。
歌田:
投資するキャピタルの額も、低いですね。
所:
我々ベンチャーをやっている者にとっては、キャピタルの不足が致命傷となります。バイオテクノロジーをビジネスとして開花させるには、どうしても実験の実施が必要ですから、時間とともにある程度大きい資金が必要となります。その辺りがITとの大きな違いかと思います。したがって、バイオベンチャーに於いては、IPO(公開)といったベンチャーキャピタルの出口だけに頼らず、ライセンスアウトや戦略的提携或いは売却(M&A)といったオプションの追求を目途とすべきです。要するに技術をバイオベンチャーで完成し製品化する必要がないと思います。製品化は、大手の製薬メーカーとの共同で行えば良いことです。
歌田:
その通りですね。そのような意味では、バイオベンチャー企業にとっては、資金問題と共に人材も課題となるでしょうね。
ちょっと話がそれるかもしれませんが、昨年アメリカのシリコンバレーに行って驚いたのは、ベンチャー企業で働いている青年なのですが、実によく働くのですね。その青年が言っていましたが、今は働けるだけ働いてストックオプションを得て、将来悠々自適な生活をおくるのが夢だそうです。
所:
そうですね。人材は大きな問題ですね。日本は、文系と理系が別々の世界で生きているところがあって本当にいけません。今後の課題は、文系と理系の融合(ダブルメジャーがもっと必要)だと私は考えますが、歌田先生の見解はいかがですか。
歌田:
私は時々この説を話すのですが、それを歌田哲学と言っている人もいるようです。前述のように21世紀の日本は科学技術創造立国が是非必要です。然しよく考えなければならないのは20世紀も世界は科学が大きく発達し、人類に豊かさと便利さをもたらしましたが、一方で光と陰がありました。21世紀はこの光の面をより大きくし、陰の面を極小化することが大切です。
バイオサイエンスで申せば、生命の安全とクリーンな環境づくり、そして人の心の平安が求められます。又人の尊厳とプライバシーの保護が必要です。
それを成就する方策として私は4つの点を申し上げたいのです。
第一は自然科学の総合化と自然科学と人文科学との融合化です。自然科学はより細分化し、深みは増しましたが総合力が薄くなりました。又自然科学は独自に突き進んで、それが及ぼす社会の影響、各人間に対する人生観、社会学、倫理観、宗教的観点、更には法規制など、あらゆる面で自然科学と人文科学との融合化が図られるべき状態です。
第二にリスクコミュニケーションが重要です。
1 消費者の立場・視点に立ち、また今後の日本の社会的変化に対応して、適正な情報を適時に発信して行く。
2 マスメディアの役割を充分認識し、正しい情報を冷静に提供するように求める。
3 一般国民の知識レベルを高めることも重要なことです。
第三に国際競争と同時に国際協調が強く求められます。
まさに科学技術の発展は人類の平和と繁栄のためであるということを関係する人全員に求められていることです。これがまさに21世紀に求められる人間の知恵だと思うのです。
所:
全く、同感です。特に、バイオテクノロジーは、その成果がグローバル市場における食品となり薬となりますから。プラットフォームテクノロジーを早く全世界の人々にとって有用なモノとなるようにする為には、まさに“競争と協調”が要求される訳です。さて、歌田顧問は日本のバイオテクノロジー産業の発展に向けて、御活躍なさっておられますが、その中で日本バイオ産業人会議というものを運営していらっしゃるようですが、その活動などを教えて頂けますか。
歌田:
この日本バイオ産業人会議を発足したのが1999年6月です。現在既に70名近いメンバーの方々と定期的に活動を進めております。これまでの政府に対しての提案として、バイオ産業国家総合戦略を産学政官が一体となって策定し遂行に当たること。
科学技術の基盤を強化し、産学とも研究開発の一層の推進を図ること。
大学等の研究成果を産業化に結びつける方策の推進と、そのための環境整備。即ち特許取得の推進およびベンチャー企業の育成策を強化。
バイオのような新しい技術を国民がよく理解し受け入れやすい状況を作ること。
特に、バイオテクノロジーは21世紀における諸問題などの解決に必須の技術であることを理解してもらうことが必要である。
などが挙げられます。
所:
ディスクロージャーのご指摘は、本当に同感です。国民に対する啓蒙は、特にバイオテクノロジー分野では大切なことですね。ところで最後に質問ですが、歌田顧問は卵はお好きですか?
歌田:
卵と焼き鳥は大好きです。私はいつも好きなものを最後に残すタイプなのですが、卵はいつも最後の最後まで取っておきます。最後に食べるのです。毎日食べています。また、よく立食パーティーなどでは、必ず卵料理を口にしています。おいしいですね。
所:
歌田顧問、今日は本当にどうも有り難うございました。
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